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日蓮正宗法華講 妙霑寺支部のサイトです。

TEL 086-255-1155

岡山県岡山市北区津高781番地 妙霑寺内

三車火宅の譬え

ある国に偉大な長者がいた。かなり歳をとって身体は衰えていたが、無量の財産を築き、さらに多くの耕作地や使用人があった。
住んでいる屋敷は広大なのだが、出入りする門は一つしかなかった。  
屋敷はというと、高い建物は壁がはがれおち、柱も腐り、梁(はり)は傾いて危険極まりない状態だった。  
その屋敷から、突然四方から火が起こって家を焼き始めた。  



長者の数十人の子供たちは、屋敷の中にいて車のおもちゃなどを使って遊びに夢中になっていた。
とりあえず長者は近くにいる子供たちに向かって、
「火事だ!火の手が迫っているから、すぐに逃げなさい。急ぎなさい!」
と大声で言ったけれど、子供たちはおもちゃから手を離さず、遊びが楽しくて振り向きもしない。
長者は、この様子を見て、次のように考えた。
「私は火の手を避けて無事に逃げることができるけれども、子供たちは燃える屋敷の中で遊びに夢中になっていて、火事に気づかず驚き恐れてもいない。おそらく火が自分たちの身を焼いても逃げようとしないだろう。一度に連れだせる子供は2~3人だ。門は一つしかなく、火の勢いからしてすべての子供たちを助けだすことは不可能だ。」  
それでも長者は再度、
「みんな、火事が迫っている。このままだと、焼け死んでしまうよ!すぐに外に出なさい!」
このように叫んだけれど、子供たちは車のおもちゃに夢中になっていて、全く言うことを聞こうとしない。  
しばらく長者は考え込んで、そして一計を思いついた。子供たちが常日頃から珍しいおもちゃを好んでいることを知っていたので、子供たちに言った。
「お前たちが、前から欲しがっていた車があるよ。それは、羊車・鹿車・牛車で外に置いてあるよ。どれも素晴らしいものばかりだ。羊車・鹿車・牛車だよ。すぐに取りに行きなさい。」  

子供たちは、長者が言った「車」という言葉を聞いて、たちまちに気持ちが切り変わり、先を争って外に飛び出た。
「車のおもちゃは僕が先だ。」
「いや、僕がもらうんだ。」
「それ、急げ!急げ!」  
子供たちが全員外に出たことを確認した長者は、心から安心した。  
子供たちは、競って、
「羊車・鹿車・牛車はどこなの?早くください。」と言った。
「よしよし、そこに用意してあるよ。みんなの分が十分にあるから、心配しなくていいよ。」  
その時に長者が用意した車は、「大白牛車(だいびゃくごしゃ)」というたいへん素晴らしいものだった。  
高さも広さも十分にあり、車の周りはというと、金、銀、瑪瑙(めのう)瑠璃(るり)硨磲(しゃこ)真珠、玫瑰(まいかい)などの七宝で飾られ、四面には美しい音色の鈴が所狭しと取り付けられ、車体は深く透明な黒い漆で仕上げられていた。漆の上には金泥(きんでい)で素晴らしい模様が描かれていた。車を引くのは白い牛で、りっぱな角を持ち筋肉隆々として速く走ることは風のようであった。さらに、この大白牛車を多くの家来が護衛していた。  
長者は、財産を惜しむことなく等しくこの大白牛車を与えたので、子供たちは大喜びであった。



【解釈】  
この物語は、妙法蓮華経譬喩品第3に説かれており、長者は仏で、火宅は苦しみの多い三界、子供たちは三界にいる一切の衆生を譬えている。  
経典では、「三界無安。猶如火宅。衆苦充満。甚可怖畏(三界は安きこと無し。なお火宅の如し。衆苦充満して、甚だ怖畏すべし)」とあり、この世は生老病死の四苦をはじめ、さまざまな苦労が多くて少しも心が安まることがないという有名な教えが説かれている。  
羊車・鹿車・牛車の三車とは声聞・縁覚・菩薩の三乗と呼ばれる人たちで、釈尊の弟子である。
釈尊は、弟子たちを導くために、それら人々の機根(仏の教えを理解する素養や能力)に応じて方便の教えを説き、そして最後に法華経に至って大白牛車である一乗(仏)の教えを与えたのであった。  


 
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