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日蓮正宗法華講 妙霑寺支部のサイトです。

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岡山県岡山市北区津高781番地 妙霑寺内

老婆と菴摩勒樹(あんまろくじゅ)の実

その昔、お釈迦様が舎衛国の祇園精舎におられた頃の話である。
一人の老婆が、甘い酒を一杯満たした袋を背負って歩いていた。
老婆は道々歩きながら菴摩勒樹(あんまろくじゅ)の木の実を取っては食べ、そのおいしさに
「何というおいしさだろう。何という甘さだろう」と幸せな気持ちになっていた。
菴摩勒樹 しばらくすると、たいへん喉が乾いた。そこで近くの井戸のあるところに行って、そこにいた女に頼んで、一杯の水を恵んでもらった。
いま食べたばかりの菴摩勒樹のおいしい味が口の中に残っていたため、その水の味も蜜のように甘く感じられた。
老婆は、そこで感激して言った。
「ああ、おいしかった。奥さん、わたしが背負っているこの袋の酒と、あなたのそのおいしい水とを交換していただきたいのですが、いかがですか」
むろん、その女は水と酒とを代えたいという物好きな老婆の言葉を聞いて驚いたものの、こんなうまい話はないと、さっそく袋一杯の酒と水とを交換してやった。
老婆は喜び勇んで、重い水瓶を楽々と背負って家に帰った。
そして、その水瓶を背から降すや否や、さっそく甘い味のする水を飲もうと水瓶からすくって口をつけた。
しかし水は甘くもなんともなくただの水だった。
老婆は首をかしげた。
「こんなはずはない。いま取りかえてきたばかりの水だから、甘いあの味がするはずだ。舌がどうかしているのだ。もう一杯飲んでみよう」 と言い、老婆はさらに一杯、二杯と飲んでみた。
しかし水は、何の変哲もないただの臭い水しかなかった。
しかし、老婆には信じられなかった。
「これは変だ。私の口がどうかしているにちがいない」 と思い、親戚や近所の人をことごとく呼び集めてその水を一杯ずつ飲んでもらった。
しかしだれも甘いとは言わなかった。
それどころか中の一人は、
「おばあさん、これはたいそう臭い濁った水ですなあ。こんな水を飲むと身体をいためますよ。いったいこんなものをどこから持って来たのですか」 と言いました。
老婆はこの言葉を聞いて、もう一度飲んで見ました。
しかし、それはやはり臭い水でしかなかった。
そこで老婆は、ようやく気がついた。
菴摩勒樹の実を食べたすぐあと飲んだ時は、そのおいしさのために臭い水も甘かった。
しかし、家に帰った時は、もう口の中には菴摩勒樹の味は残っていなかったのだ。
老婆は自分の舌の錯覚によって大損をしたことを悟った。
しかし、この後悔も後の祭りだった。
世の中には、一時の欲や錯覚にとらわれて、こうした大損をする人が多いという話である。
(大荘厳論経第十五)

【解説】
大荘厳論経は、大正新脩大藏經で本縁部に属している。
これは、2世紀頃に活躍した馬鳴菩薩が著し、鳩摩羅什が訳したもので15巻からなる。この物語は、89話ある中の80番目にある話である。
話の冒頭は、「復次我昔曾聞(また私は昔に次のように聞いた)」との書き出しで始まる。

★馬鳴菩薩について
馬鳴(めみょう)と読み、梵語では、アシュヴァゴーシャという。
紀元後80年頃~150年頃)に活躍した古代インドの仏教僧侶である。
バラモンの家系に生まれ、学僧として活躍し議論を好んだ。
当初は仏教を非難していたが、付法蔵第11人目の富那奢(ふなしゃ)に論破され、舌を切って謝罪しようとしたが、諭されて仏教に帰依し布教するようになった。
聡明で智慧があり、中インド華氏城(パータリプトラ)において、天賦の詩才をもって民衆を教化した。
ある時、釈迦の弟子であるラッタパーラをモデルとして戯曲を作り演じたところ、多くの市民が教化され、皆それを聞いて無常を悟り、500人もの王子や人々が出家したことから、王はついにこの戯曲を演じることを禁止した。
後に大月氏国(クシャーン朝)のカニシカ王が中インドを征服したとき、この王に伴われ、北インドへ赴いた。
カニシカ王の保護のもとで、仏法を弘教して民衆から尊敬され、太陽のように徳のある人という意味で「功徳日」と敬称された。

★菴摩勒樹(あんまろくじゅ)
マメ科の高木タマリンドの異名である。
タマリンドは、マメ科の常緑高木で、熱帯アフリカやインド原産である。
幹は高さ25m、直径1~1.5mにもなり、葉は偶数羽状複葉で長さ10~15cmである。
4~5月頃、淡黄色の花を総状花序につける。
莢は細長く秋冬の頃に茶褐色に熟し、果肉のパルプ質の部分に甘ずっぱみがあって清涼飲料に加えたり、香料や薬用に用いる。
また、別にトウダイグサ科の落葉小高木を指す。
熱帯アジア原産でインド、台湾などで栽培される。
高さ約10mほどであり、葉は小枝に多数の葉を二列に密生し、羽状複葉に見える。
花は黄色で小さく、果実は直径約2.5cmで赤熟する。
収斂(しゅうれん)効果があるので薬用としたり、砂糖漬けや塩漬けにして食用する。
この木は、花が多いが果実を結ぶことが少ないところから、仏道を志す者は多くてもその道を極める者が少ないたとえにするという。


 
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