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日蓮正宗法華講 妙霑寺支部のサイトです。

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岡山県岡山市北区津高781番地 妙霑寺内

彼岸抄(原文)

彼岸鈔
                    昭和新定御書 第三巻
 夫れ彼岸とは春秋の時正の七日、信男信女あって、若し彼の衆善を修して小行を勤むれば、生死の此の岸より苦海の蒼波を凌ぎ、菩提の彼岸に到る時節なり。
 故に此の七日を彼岸と號(ごう)す。所似に梵王・帝釋・閻魔法皇・五道の冥官・太山府君・司命・司録等の冥衆、日日夜夜に善悪を註(しる)し著(つ)け給ふなり。
 大梵天王の前には曼陀幢(まんだどう)の上に浮び、天の帝釋の喜見城には四面の壁に移り、閻魔法皇の前には浄玻璃(じょうはり)の鏡曇りなし。一切衆生の善悪の所作悉く顯現するなり。
 一一に註し給ふ上一切衆生に皆二天あり、同時に而も生ず。一は同生と曰ひ、二は同名と曰ふ。彼の天と人と恒に相隨遂(ずいつい)す。天は常に人を見る、人は天を見ず。
 産生の時より命盡(つく)るまで副(そ)ひ具して暫くも離るる事なし。
 行住坐臥の所行所作悉く札に註して閻魔王に奏す。之に依て衆生の善悪の業因少しも隠れ無く、諸天冥道(めいどう)註し給ふ者なり。
 梵王と釋王と閣魔王の三人の計ひとして三巻の帖帳(じょうちょう)あり。善悪無記に各々一帖なり。是の帳を勘定の為に欲色二界の中間、中陽院と云ふ處に冥衆集り、各々の帳を談合し八度之を校し三度之を覆す。治定再治して印判を押し、善悪を定判し決斷する時節なり。
 若し此の時衆生あつて一善を修すれば、假(たと)ひ衆罪の札に着くべきも、善根の日記に著るなり。悪業を作れば善の筆を留めて悪の札に定む。
 是に知んぬ善悪決定の時節なり。二季時正此の時に小善は大善となるなり。小悪を作れば又大悪となる者なり。善悪二の道を定むと雖も、一善なれども能く菩提の彼の岸に到る故に彼岸と號するなり。
 若し人年年月月の罪業の札を消して善の札に改めて決定して菩提を得んと欲する者、此の七日の内に一善の小行を修せば必ず佛果菩提を得べし。餘の時節に日月を運び功勞を盡(つく)すよりは、彼岸一日の小善は能く大菩提に至るなり。
 誰人か此の時節を知りて小善をも修せざらん。彼の極熱の日に藍を曝(さら)し、極寒の水に錦を洗ふに、更に色を變ぜざるが如く、又蜀川に錦を洗ふに其の色を倍し、楚山に玉を練るに光をはくが如し。此の日時に善根を修すれば永く改轉(かいてん)なく能く増益せん。
 龍樹菩薩の檢帳に云く、「晝夜の均等は二八月の七日にあり。此の日に當つて善根を營み悪業を禁ずるなり」云云。
 「倶舎」には一年中を寒熱雨三際にわけたり。寒際の四月は十一月・十二月・正月・二月なり。熱際の四月は三月・四月・五月・六月なり。雨際の四月は七月・八月・九月・十月なり。寒際第四の月第七日は此の間の二月七日に當れり。
 夜十五の牟呼栗多(むこりた)、晝十五の牟呼栗多なり。
 牟呼栗多とは人間の六根の振舞に、國土の六境を交合する日なり。
 雨際の第二月の第七日は此の間の八月七日に當る。日夜平等の時分なり。此の時分は人天有情界の五臓・五大と、諸佛の五智と交合する時分なり。
 寒熱雨の三際暦に相傳あり。複数の重を習ふ可き者なり。今此の比の陰陽士は複数の重之を知らずして、二十八宿の表示を習ふ故に、龍樹菩薩の檢帳の本意を失ふ者なり。
 日蓮が弟子の中に陰陽道一人あり。此の故を習はんが為に歸伏して此の事を改めて習合すなり。
 近代の明匠道性と申せし僧衆なり。是先生の宿習に引かれて何程も無く死す。故に国に此の事能く習ふ人何れか候や。心元なく候。
 然りと雖も日蓮此の事を宗とせず、委細に書く事なし。彼岸の次でに一端を書き顕はさんとて、龍樹菩薩一巻の日なみを書き、暦を校して二月八月時正を以て信力を立てさせんが為の事なり。
 暦と申す事は源と龍樹の檢帳の巻物より出でたり。佛法を深く修學せざる陰陽士の中に、暦の比翼は跡形なき事なり。
 御身は随分の陰陽士と承り候へば、此の理に依て信力を進めんが為に此の事を書き申す。暦の序にも習ふ事候。
 今此の暦作りに尋ねられて聞し食して、日蓮に合ひて聞し食しし御校合あるべき者なり。但仰いで二月八月の時正を能く能く御信仰あるべき者なり云云。
 佛説彼岸功徳成就經に云く、「疾く佛道を成ぜんとならば、汝等當に知るべし、二月七日八月七日、晝夜同時に一切の諸佛三世の世尊及び無数萬億の菩薩等、乃至諸法を演説して衆生に於て樂を與(あた)ふ時なり」云云。又云く「二月八月彼岸の時、十方の諸佛歌讃(かさん)し給ふなり」云云。
 又云く、「釋迦牟尼如来旃檀華如来、正像末の中に二月八月の彼岸の時修行する故に佛道を成ずることを得」云云。
                           弘安五年正月十六日
                               日 蓮 花押


 
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