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日蓮正宗法華講 妙霑寺支部のサイトです。

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岡山県岡山市北区津高781番地 妙霑寺内

鷹に身を投げた尸毘王

 釈尊が仏陀になる前の昔、尸毘王(しびおう)であった時、たいへん慈悲深く、民衆を愛する心は母が我が子を愛する如くであった。
 釈提桓因王がまもなく命終しようとした時、王は天上に還えり仏のいないことを憂愁していた。そこに毘首羯磨天(びしゅかつまてん)が現れ、なぜ憂いているのかと尋ねると、王は「仏様を求めているのに、いないからだ」と答えた。
 毘首羯磨天は「ここに大菩薩がいる。この人は布施・持戒・禅定・智慧を具足しているから、まもなく仏になるであろう」と言った。そこで本当に尸毘王に菩薩の相があるかどうか試してみようということになった。
 「汝は鴿(はと)になりなさい、私は鷹となる。汝は怖れて尸毘王の腋の下に入ってほしい。そうして私は汝を追いかけよう」と約束したのである。これはけっして悪心からでなく、菩薩の心を確めるためである。
 毘首羯磨天は自ら変じて赤い眼と足をした鴿となり、釈提桓因王もまた自ら変じて鷹となり、急飛して追いかけた。鴿は王の腋の下に逃げ、恐怖の余り声も出なかった。鷹は近くの樹の上から尸毘王に「私の鴿を還しなさい。それは私のものだ」と言った。

「私は汝より先にこれを得たので、もはや汝のものでない。私は最初に一切衆生を引き受け、度脱しようと発心した」

「あなたは一切衆生を度脱したいと言うが、私はその中に入らないのか。なぜ私を愍(あわれ)みないのか。しかるに私の今日の食物を奪ってしまったではないか」

「汝は何を食とするのか。私は衆生が来て私に帰する者は必ずその者を救護すると誓願した。それで汝は何を食べたいのか、それを与えよう」

「私は殺したての熱肉がほしい」

「それは得るのがむつかしい。自ら生き物を殺さなければ得ることができない。どうして一を殺して一に与えられようか。私のこの身は常に老病死に属し、まもなく臭爛するから我が身を汝に与えよう」
 尸毘王はこのように考えて、人を呼んで刀を持たせ、自ら股の肉を割いて鷹に与えた。

「王よ、熱肉を私にくれたといっても王の肉の重さと鴿の重さとは同じでない。私を欺いてはいけない」。
 王は秤はかりを持たせ計ってみると鷹の言うとおり王の肉は軽かった。王は人を呼んで二股を割かせたが、また軽くて不足した。更に両踹(りょうたん)、両臗(りょうかん)、両乳、頸脊(けいせき)を割き、続いてすべてを取ったが、なお鴿の身は重く王の肉は軽かった。
 この時、近臣・内戚が幕を張って、「王はこんな状態なので観てはいけません」と人々を追い帰そうとすると、尸毘王はそれを止め自分の姿を看せしめた。そして菩薩(尸毘王)は血を手に塗り、秤によじのぼろうと心を定め、身を尽くして鴿の重さと比べようとしていた。

「この事実は言い訳がきかない。鴿を私に還しなさい」

「鴿は私の所に来たのだ。けっして汝に与えない。私は今まで無量の身を喪うしなったが、それが少しも他のために役立っていなかった。今度ばかりは身を仏道のために求めかえようと思う」
 菩薩は手を使い秤によじのぼろうとしたが落ちてしまった。既に王の肉は尽き、筋は切れていたからである。
 菩薩は自らを「汝、堅固にせよ、迷悶してはならぬ」と叱咤し、更に「一切衆生は憂苦の大海に沈んでいる。汝は一人誓いを立てて一切を度そうとしているのに、なぜ迷悶している。この苦は甚少であり、地獄の苦は甚大である。汝の苦を地獄の苦と比較すれば十六分の一にも及ばない。我には今、智慧、持戒、禅定がある。だがなおこの苦に煩っている。それなら地獄に堕し智慧なき者はどうなるのか」と。菩薩は一心に秤にのぼるに「私を扶けよ」と言った。
 身を喪うことで菩薩の、心に悔いはなかった。これを見た諸天・竜王・阿修羅・鬼神・人民は皆「一匹の小鳥のためにこのような行動を取れるのは希れである」と絶賛した。
 と同時に大地が六種に震動し、大海は波をあげ、枯れ木に花を咲かせ、天は香雨をふらし、きれいな花を散じた。天女は歌いながら「必ずこの人は仏になる」と讃じ、四方の神仙も皆来て、「これ真の菩薩、必ず早く仏になる」と讃じた。
 鷹が鴿に「このように身命を惜しまないのは真の菩薩だからである」と。鴿が鷹に「天主よ、汝の神力で王の身を元に戻しなさい」と。鷹は「私を必要としない。この王は自ら誓願して大いに心が歓喜して身命を惜しまない。一切のものを感発し、仏道を求めさせている」と。
 鷹は王に「汝の肉が割け、辛苦で心を悩没しなかったか」と言った。

「私の心は歓喜して少しも悩むことも没することもない」

「それを誰が信じようか」
 この時、菩薩は誓願して「我、肉が割け血を流すとも瞋らず、悩まず、悶えず、そのように仏道を求めたとすれば、私の身はすぐに元に戻るでしょう」と言うや、すぐさま身は元に戻った。これを見て人天は大悲喜して「未曾有なり」と嘆じ、「この菩薩は必ず作成する。我等は一心を尽くして供養をします。願わくば早く仏道を成じられ、我等を念じられますように」と。
 時に鷹は釈提桓因王に、鴿は毘首羯磨天に姿を戻し、共に歓喜して天上に還ったのである。
      (歴代法主全書四巻)


 
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